【イベントレポート】 今年の挑戦「より街へ開かれた芸術祭に」ーこれまでの道のりを振り返ってー

「科学と芸術の丘 プレイベント」を8/27(金)18:00-19:30にオンラインにて開催しました。

登壇したのは、1年目の立ち上げから科学と芸術の丘に携わってきたメンバーの4名です。

アルスエレクロトニカ・フューチャーラボ研究員でありアーティストの清水陽子さん、松戸市文化観光国際課・尾形一枝、0!(ゼロファクトリアル)/omusubi不動産代表・殿塚建吾、そして科学と芸術の丘ディレクター・関口智子。

立ち上げの経緯や今までの振り返り、そして今年の挑戦などを公の場で語り合うのは初めての機会となりました。

国外から見た松戸という街に感じた可能性、イベントの開催にあたり様々な市と街の協力、また4年目を迎えて見えてきた可能性や、運営メンバーが感極まる裏話まで飛び出しました。

松戸市・協力パートナーである国際機関・事業者の立場を越えた和やかなやりとりに、松戸市の街と人の関係性のひとつを垣間見ることができる回となりました。ぜひ、アーカイブ動画と合わせてご覧ください。

これまでの「科学と芸術の丘」の振り返り
今年のテーマ「OPEN  CITY − 触発する街 −」

まず始めに、関口よりこれまでの「科学と芸術の丘」を振り返ります。

2018年は「Space of Imagination」というテーマで私たちを囲む豊かな自然と、生命の惑星である地球、そしてこれから人類が踏み出す宇宙へと広がる、世界最先端のプロジェクトを体験するフェスティバルに。

2019年は「Citizens of the Future – 未来の市民 – 」と題し、未来の社会を描くワークショップ、未来のプロトタイピング、未来のプログラミング、未来の人類へメッセージ送る宇宙プロジェクトなど、市民が主体となる参加型のプロジェクトをキュレーション。

昨年は新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにより、私たちの生き方や社会が大きく変化する中、「Garden of Creativity – はじまりの庭 – 」をテーマに、自然と人間社会とのバランスや、社会システムの課題に対して、クリエイティブな発想により取り組む世界中のアーティストや研究者をピックアップしたオンラインとオンサイトのハイブリッドな祭典となりました。

そして、今年のテーマに決まったのが「OPEN CITY – 触発する街 – 」です。

関口
人と人のつながりやコミュニティ、そこで育まれる文化など、手触りのあるあたたかさや自然との調和のなかにこそ、次のイノベーションを起こすエネルギーが眠っているのではないか。今年はより松戸の街のみなさんにひらかれたイベントとして、一緒につくっていけたらと思っています。

1、2年目の総合ディレクター・清水陽子さんから見た「科学と芸術の丘」
『ブルックリンやリンツのようなクリエイティブなポテンシャルを感じる街、松戸』

清水さんは海外を舞台に活躍するアーティスト。世界各地で活動する中、アートやクリエイティビティで街や地域が活性化していく状況を目の当たりにしてきました。現在、自身が所属している文化機関「アルスエレクトロニカ」も、数名の発起人が小規模な芸術祭を開催したことから始まり、現在はリンツ市の行政機関の一部となるまでに発展。街自体も、デザイナーやスタートアップ企業が集まる場所になっているそうです。

そんな清水さんが日本で活動をしている時、「関東で若手のクリエイターが、今は使われなくなったエリアを、自分たちで開拓し表現をしている場所はないのか」と考え、見つけたのが松戸でした。

「松戸で古い物件を借りてクリエイティブスペースにしてみたい」と連絡をとったのが、その後ともに科学と芸術の丘を始めることになる、omusubi不動産の殿塚です。

殿塚
清水さんから連絡をもらったときには、壮大な勘違いが起きているんじゃないかなと思いました(笑)一方で、松戸市は10年前からアートを取り入れたまちづくりを行っていて。PARADISE AIR というアーティスト・イン・レジデンスの施設が生まれたりしていて。ようやく、清水さんのような人に届くようになったんだなと、嬉しかったです。

2018年展示作品『Flower of Time』Ars Electronica Futurelab)photo:Hajime Kato

古いビルに入居を決めた清水さんは、自分でDIYをしてスタジオづくりを試みたそう。思っていた以上に大変だったようですが、自分で自分の居場所をつくる、いい経験になったと話します。

清水
松戸のクリエイターのみんなが、わっと集まるような機会があったらいいんじゃないかと思うようになりました。松戸ではインターナショナルな仲間と一緒になにかをやる機会が、まだまだ少ないということも分かってきて。じゃあ自分で立ち上げてみようかと考えたんです。

当時から関わりがあったアルスエレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表・小川さんに相談したところ、心強いサポートを受けられることに。

清水
壮大な夢溢れる企画書をつくるのに、殿塚さんにも協力してもらって。松戸市の方々にも見てもらおうと話が広がり、科学と芸術の丘が生まれていきました。

松戸で不動産業を営むomusubi不動産・殿塚から見る「科学と芸術の丘」
『街の中に生まれた生態系が可視化されてきた』

2014年に松戸市でomusubi不動産を設立した殿塚。改装やDIYができる物件を多く取り扱うことで、クリエイターやアーティストなど、自分の暮らしを自分でつくりたい人たちが集まりやすい土壌をつくることを目指し、活動してきました。

殿塚
清水さんから企画を聞いたとき、「これはやるしかない」って。松戸で各々におもしろいことをしている人たちが、一緒になって何か共通の目的に向かっていく。新しくきた人たちも気軽に参加できる。物件だけでなく、お祭りもDIYしていくような企画にできたらと思ったんです。

清水さんとともに練り上げた企画を受け入れてくれたのが、松戸市文化観光国際課でした。「科学と芸術の丘」という企画を受け入れる寛容度、文化への理解があったのは、松戸でアートプロジェクトが続けられてきた10年が積み重なってきたからこそ。

清水
街の芸術祭が、クリエイティブな活動をしている人たちから自然発生的に始まる。行政と一緒に、大学や研究機関、アルスエレクトロニカを巻き込みながら、有機的に運営されていく。それは、世界各地で行われている芸術祭を見ても、なかなかない形だと思います。

2019年展示作品『仮想通貨奉納祭』市原えつこ photo:Hajime Kato

「科学と芸術の丘」をきっかけに、街で活動する人たちの顔が見えるようになってきたと話す殿塚。クリエイターとつながりができた1年目、フォーマットが見えてきた2年目、感染症対策を行いながら開催した3年目を経て、今年はより街へと開いていく方法を模索しています。

殿塚
今年やろうとしていることができたら、街の中に生まれてきた生態系が可視化されていくのではと思っていて。イベントという形であっても、松戸の街に残る社会的資産になる。民間と行政、昔からいる人や新しい人、アーティストやそうじゃない人。そうゆうのを飛び越えて参加できるシステムになってきている。今年の「OPEN CITY – 触発する街 -」というテーマが、今後の5年10年の松戸を支えていくものになればと考えています。

松戸市文化観光国際課・尾形一枝から見る「科学と芸術の丘」
『今のみんながいてくれれば、絶対に乗り越えられる』

松戸市の担当者として1年目から関わり続ける尾形は、科学と芸術の丘の開催が決まった後に、文化観光国際課に異動してきました。今では企画や各所との調整などをパワフルに担ってますが、担当になった当時は、「クリエイティブな社会を築くための触媒となる」という清水さんの話は、魔法の言葉に聞こえたと言います。

尾形
清水さんが「クリエイティブな未来の街や社会を築ける人が松戸にはたくさんいる」と、初年度から信じていて。それが私にとってすごく励みになっています。初めて開催した時に、殿塚さんが男泣きしてね(笑)そうやって熱い思いを持って一緒に頑張ってくれる運営スタッフや、市民の有志のボランティアの皆さんがいることは、続けていく力になりますよね。

2020年 開催当日、サポートスタッフとの朝礼 photo:Kimi Nakajima

サポートスタッフとして関わってくれる人たちと、ふだん街のなかで出会い「科学と芸術の丘」について言葉を交わすことも少なくないそう。参加している人たちがそれぞれ、自分ごととして関わってくれていることが、毎年壁を乗り越えながらも開催できる秘訣だと話していました。

尾形
どんな状況でも、今のみんながいてくれれば、絶対に乗り越えられる。必ず良い形で開催し続けられると思っています。

清水
参加したアーティストの皆さんも、運営しているチームの雰囲気がよかったと言ってくれます。開催後もアーティストたちとの繋がりが続いていて、クリエイティブなエコシステムができているのかなと思っています。

戸定邸での忘れられない一言

「科学と芸術の丘」の大きな要素のひとつが、会場となる戸定邸や手入れの行き届いた庭の、美しい空間が舞台となっていることです。

2018年 戸定邸 photo:Hajime Kato

清水さんが、アルスエレクトロニカのメンバーや海外からのアーティストを案内する際、戸定邸の空間を見た瞬間、ここで展示できることを喜んでくれる人が多いそうです。

清水
七五三の方がいたり、お年寄りの方々や赤ちゃんがいたり。戸定邸だからこそ流れている空気感がありますよね。最先端な作品を展示しても、とがりすぎて怖い感じがしない。日本ならではの伝統的な空間に、革新的なものが入ってくるという化学反応がかっこいいんです。

第1回目の開催に向けて、国の重要文化財である戸定邸を会場として使いたいことを当時の館長さんに相談しに行ったときのことを、殿塚は今でも忘れられないと言います。

殿塚

「ここは徳川昭武さんの家だった。一時は公民館のように使っていた場所を、みんなで重要文化財にした。時代に合わせて使い方を変えてきたから、この場所が残っているんだ。市民の人や街の人から新しい使い方を求められているのであれば、使い方を変えていくことが文化財を残すことにも繋がる」と話してくださって。「やりましょう」と承諾いただいたことが、ずっと忘れらません。状況が変わるなかで、毎年やらせてもらえるのはあたり前じゃないんだと言い聞かせながら、今年も準備を進めていきたいと思います。

立ち上げメンバーの想いが聞けたトークイベントは、YouTubeにてアーカイブでもご視聴いただけます。よろしければ、本人たちの熱とともに、ご覧になってみてください。